『Dr.孝志郎 × ハリソン内科学』

情報更新 2013/02/17

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臨床力=得点力

――――たとえば、学生だったらどのように『ハリソン』を活用したらいいのでしょうか?

1ページ目からすべて読むという方法は、ドクターでさえかなり重たい話です。学生も同じでしょう。『ハリソン』を目の前に積んでさあ勉強しなさいと言ったら、みんな困ってしまう。僕が勧めているのは、病院実習と合わせて使う方法。4年生の終わりくらいから病院実習がはじまるので、そこで担当した患者さんの症例について勉強するのが効果的だろうと。

最近は国試問題の傾向が変わってきました。臨床力=得点力になってきている。ところが、学生は将来につながる勉強をしたくても、目の前の試験対策に追われてしまうのが現状でしょう。『ハリソン』ならそこをカバーする勉強ができます。自分が担当した患者さんについてだけでも『ハリソン』を読む、そのように使用することで、臨床力=得点力となる力がついていくでしょう。

『ハリソン』を読むときに重要なのが、病態生理、症候学、疫学を意識しながら読むということです。進級試験でも、国試でも重要になってくる3つのポイントなので。国試の必修は、泣いても笑っても絶対評価です。8割を1点でも切るとアウト。これから国試を受けることになる学生ならば、それに対応していかなくてはならない。

最近の傾向は厚生労働省の願いでもあるのでしょう。僕が受けた頃の国試は検査の問題ばかりでした。いろいろな検査をしたり、難しい検査結果を読んだりするような問題が多かった。その頃はまだ国にお金がありましたからね。ガンガン検査をしても良かった。でも、今ではそれが不可能です。いかにお金をかけずに診断を絞り込めるか。簡単な検査だけで、いかに効率よく確定診断をつけられるかという能力が重視されるようになりました。

診断力をつける

――――それではそのような能力を磨くための具体的な対策は何かあるのでしょうか?

僕がよく学生に言うのが、例えば「咳が止まらない」という主訴から、考えられる病名を最低5つはあげられるようにしなさいということ。まず考えられるのはマイコプラズマ肺炎。罹患率は高くて、マクロライド系の抗菌薬をあげないと治らない肺炎。次に感染力の高い百日咳。日本中で流行っていますね。これも咳だけあって、聴診器ではわかりません。そして間質性肺炎。ステロイドを使わないといけない怖いものもある。あとは薬剤性を考えなければならない。処方された薬で咳が出ているというパターン。「ACEインヒビター」という薬の副作用は有名。もう一つは咳喘息。喘息で咳しか出ないタイプ。聴診器で聞いてもスパイロメトリーをやっても何も出ないけど、喘息の薬で嘘みたいに治まる。まずはパッとこれくらい挙げられないと話にならない。

よく海外のドクターに言われるのが、日本の医師は診断名がついていれば非常に優秀だということ。治療法も予後も予防もちゃんと頭に入っています。ただ、診断をつけるまでのプロセスに関しては、あまりトレーニングされていないと言われる。診断さえ付けば、そこからレールに乗るのは上手だけれども、始めの“もや”がかかっている状態からポンと診断を抜き出す能力が足りないと。国試の問題を作る先生方もそういった診断力をつけるためのテストを作るようになってきています。来年には国試のガイドラインが変わるので、そういった流れはさらに加速するだろうと予想されます。