『Dr.孝志郎 × ハリソン内科学』

情報更新 2013/02/17

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症候学から病態生理という流れ

――――なるほど、そうした診断力をつけるのに『ハリソン』がぴったりだということですね。では、『ハリソン内科学』が他の内科学書と違っている点はどこなのでしょう?

まず、『ハリソン』は言葉がシンプルで、読みやすいです。難解な言葉は実はあまり使われていません。あと、僕が気に入っているのが、構成がちゃんと患者さんを診る順番になっているということ。症候から病態生理という流れになっている。外来で患者さんが来たときに、まずはじめに患者さんの言葉をヒアリングする。その部分から書かれているので、とても外来をイメージしやすい。患者さんを診た経験があれば、場景が目に浮かびます。こういう症状で入ってきて、こういうことを求めてきて、こういう病態生理だからこういう治療しよう、と。そういった流れに沿って書かれているので、とても現場にフィットしていると思います。

一つデモンストレーションすると、今この場で突然誰かが倒れて痙攣したとします。それに対して、この痙攣だったらこの治療、そういった説明はとても無機質だと思う。『ハリソン』だと、ちゃんと人を助ける順番になっていますね。痙攣の例で話すと、ジアゼパムの静脈投与がまず出てきます。あとは酸素投与。それが治療法であると。次に病態生理が出てきます。何故それをやらなければいけないのかという点。痙攣とは脳の過剰放電で、電気がスパークしすぎて過剰に放電している状態で、それで体がおかしくなって痙攣しているのだと。これは見方を変えると脳が酸素を使い込んでいるということ。余計な放電をしている分、酸素を使い込んでいる。脳にとって酸素は重要なので、このまま痙攣が続けば、低酸素脳症になるだろうと、誰でもわかるように書かれています。これを防ぐために酸素を投与すると、それが『ハリソン』の書き方。とてもわかりやすい。はじめは難しそうに見えるかもしれないけど、考える順番に沿っているから、読み方さえわかってしまえばとても使いやすい。目の前の痙攣に対して、とりあえずこれをやれというのが書いてあって、次にそれをやる理由が来る。病態生理はこうだから、こういう治療が適している。ちゃんと裏づけが書いてある。僕が臨床的だと言うのはそういうところですね。症候学から病態生理という流れで説明している。それは僕の講義の流れともまったく一緒です。僕の講義はよく、わかりやすくて楽しいと言われますけど、ある意味同じエッセンスですね。

臨床に即した本で学ぶ

――――確かにそうですね。『ハリソン』の情報量は学生にとっては非常に多いので、尻込みしてしまう人も多いかと思いますが、逆にこういう風に使えばいいというようなアドバイスはありますか。

『ハリソン』の情報量がそれほど多いとは思いません。確かに学生のうちに勉強しておきたい内容のマキシマムだとは思いますが。レジデント、後期研修を考えるなら、ここに書いてある内容にプラスして、自分が経験した患者さんのことを書き込んで、それで初めてパーフェクトになると思います。講義でもよく「理論とビジョン」という言葉を使います。右脳と左脳。『ハリソン』は理論なので左脳。自分が経験した患者さんは具体的な絵として覚えているビジョンなので、右脳。この病気はこういう理論で、その患者さんはあんな顔して苦しんでいるというように、理論とビジョンを組み合せることができればパーフェクトだと思います。

あと、これは大学によって違いますが、進級試験が記述の学校なら、『ハリソン』で勉強したほうがわかりやすいかもしれませんね。内容がまとまっているので、一夜漬けとかに使えるかもしれない(笑)。もちろん、全部読めというわけではなくて、出る疾患とかは先輩などから聞いているでしょうから、『ハリソン』を見て、自分なりに記述をまとめていった方が早いと思います。もちろん、試験対策に有効と言われている本は、それはそれで使った方がいいと思いますが、それと『ハリソン』を合わせて使うことで、ものすごく生きると思う。とにかく試してみる価値ありです。

気をつけて欲しいのが、国試対策向けの本をそのまま使い続けている研修医。ずっとそれだけでやっていくのはあまりオススメできません。あくまでも、国試対策として要点整理をすることに主眼を置いた本ですからね。臨床の現場に対応できないケースも多いんです。たとえば、ギランバレー症候群という神経病の記述がわかりやすいです。カンピロバクターという食中毒の後遺症で、日本で発生件数が一番多い神経病です。カンピロバクターは下痢、下血、発熱などの症状を引き起こすのですが、白血球はその原因菌をやっつけることができます。そして、1度経験すれば白血球は菌の顔を覚えます。面白いのが、カンピロバクターの顔と脊髄神経根の顔が似ているということ。カンピロバクターの顔を覚えた白血球は間違って脊髄神経根に攻撃をします。それで神経がやられて痺れるのです。

国試対策向けの本を参照してみると、治療方法としてガンマーグロブリンの大量投与と血漿交換が並べて書いてあります。国試であればそれで正解かもしれない。しかし、それで判断してしまうのは非常に危険です。これだけ見ると組み合せてもいいのかと思ってしまいますよね。でも、これはあり得ないんです。血漿交換は体の中にあるガンマーグロブリンを除去する治療法なので、同時にやったらまったく意味がなくなってしまう。『ハリソン』なら、そこにもちゃんと注意するように記述してあります。実際の臨床の現場を反映しているからです。そして、そうやって臨床に即した本で学んだ方が自分の実力にもなりますし、絶対に楽しいはずです。学生や研修医の皆さんにはそのような楽しさにぜひ目覚めてもらいたいですね。

いずれにしろ、医師になる者だったら成書の一冊は絶対必要です。たとえ始めはそれが本棚の飾りになるとしても、持っていれば後で絶対良さに気付くので。『ハリソン』は3~4年ごとに改訂されますが、5年後、10年後までずっと使えるものですからね。

 

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