Dr.押味の医学英語カフェ

Menu 3 学会での質疑応答を乗り切るテクニック

こんにちは。「医学英語カフェ」にようこそ!

ここは「コーヒー1杯分」の時間で、医学英語にまつわる話を気軽に楽しんでいただくコーナーです。

本日のテーマは「学会での質疑応答を乗り切るテクニックとその英語表現」。

学会society が開催する「学術集会annual meeting/conference に参加することは研究医にとってはもちろん、臨床医にとっても重要なことです。わざわざ学術集会に足を運んでまで参加する最大の目的は「懇親会networking reception や「夕食会gala/banquet に参加して「ネットワークprofessional network を構築することですが、そのためには懇親会で行う「世間話 small talks をこなす英語スキルだけでなく、日中行われている口頭発表の場で「良い質問をする asking good questions ことと、「自分の発表の際に質疑応答を上手く乗り切るdealing with difficult questions from the floor ことも重要になります。
そこで本日は国際学会での質疑応答を上手く乗り切るためのテクニックと英語表現をご紹介します。

日本人医師が学術集会で発表する際にはネイティブスピーカーにチェックしてもらったスライドと原稿を使い、その原稿を読み上げるか丸暗記するかのどちらかが一般的ですが、このような発表方法では質疑応答になった途端に「地金の英語力」とのギャップが大きくなります。原稿を用意して練習をすること自体はお勧めしますが、発表する際には「準備した原稿を読まずに自分の英語で聴衆に話しかけるextemporaneous style という口頭発表の王道スタイルで臨むことを心がけましょう。

学術集会では「発表者としてどのように質問に答えるか」だけではなく、「他の発表者にどんな質問をするか」ということも重要です。質問をする際にはあらかじめ用意されているマイクの前に並んでおき、自分の順番になったら一言「お世辞compliment を述べるのが国際的にも慣例ですが、その際には “Thank you for the useful talk.” のような「上から目線」の表現は控えましょう。ここでは色々な形容詞が使えますが、どんな内容にも使える無難な “Thank you for the very interesting talk.” という簡単な形容詞が便利です。

次に自分の「名前と所属機関」 your name and affiliation を簡潔に述べるのですが、所属機関を述べる際には “My name is Takayuki Oshimi. I am with International University of Health and Welfare in Japan.” のように with という前置詞が便利です。海外の参加者にとっては Tokyo/Osaka/Kyoto 以外の日本の都市はほとんど馴染みがないので、自分の大学や病院の地方を述べずに簡単に「日本の」 in Japan と表現しましょう。

質問をする際には「他の参加者の時間を奪って質問をしている」という自覚をもち、「他の参加者にとっても有用な質問であるかどうか」を考えて質問します。「日本ではこうなんですけど、それについてどう思いますか?」のような質問は発表が終了してから個人的に尋ねるようにしましょう。また良い質問をした聴衆は「賢い参加者」であるわけですから、professional networking を築くための良い対象者となります。コーヒーブレイクの時に “That was a very good question.” と話しかけて、professional networking のキッカケとしてください。

自分の発表後、会場から質問を受けた場合には一言 “That is an excellent question.” とお世辞を述べましょう。質問が聞き取れなかった場合、間違っても “I couldn’t understand your question.” とは言わないように。これは「お前の言ってること意味わかんねぇよ」という意味ですから。こういう場合には “I’m afraid I didn’t catch your question. Could you repeat that for me please?” というように catch という動詞を使いましょう。

しかし多くの日本人医師にとって、質疑応答での一番の悩みは「質問自体を聞き取ることができない」ことだと思います。ネイティブスピーカーからの質問が聞き取れず、「演壇 podium の後でパニックになるのが多くの日本人医師にとっての最悪のシナリオです。そこでお勧めするテクニックが「座長を通訳として使う」ということです。

学術集会ではどんな口頭発表にも「座長chairperson/chair がいます。その役目は主に「時間内にそのセッションを終えること」「質疑応答の論点整理をすること」「会場から質問がない場合には自分で質問すること」の3つです。したがって発表者が質問を理解できずに困ってしまうのは、座長にとっても望ましい状況ではないのです。

そこで会場からの質問を正しく理解できる自信がない場合は、あらかじめ座長を務める先生に「会場からの英語の質問を正しく理解できる自信がないので、私でもわかるようなわかりやすい英語に言い換えてもらえませんでしょうか?」 “I’m concerned that I may not be able to understand questions from the floor correctly. Would you mind paraphrasing the questions into easier phrases so that I can understand them correctly if I have trouble understanding?” と、「通訳」のような役割をお願いすることをお勧めします。

さらに自信がない場合には「私はこういう3つの質問を想定して、それに対する回答も用意しています。もし可能でしたらこれらに関連づけて言い換えて頂けると助かります。」 “I have prepared these answers for the three possible questions, so if you could relate the questions from the floor to these prepared answers, I’d really appreciate it.” と付け加えて、あらかじめ想定した3つの質問とその回答を書いた紙を渡すことも有効です。先ほど述べた通り、座長には「会場から質問がない場合には自分で質問すること」が求められるので、質問を考えてもらって困ることはありませんから。

さてそろそろカップのコーヒーも残りわずかです。最後に今日ご紹介した座長へのお願いを、「事前にメールでお願いする」際の文面をご紹介します。

Dear Dr. (座長の先生のフルネーム):
I am Dr. (自分のフルネーム), who is scheduled to present at the (座長が担当する口頭発表のセッション名).
To limit any confusion during the question-and-answer period caused by my limited English proficiency, I would really appreciate it if you could kindly paraphrase questions from the floor into simpler English sentences.
I have prepared for the following possible questions, so relating the questions to the answers would be most grateful:

(想定した質問 1)
(想定した質問 1への回答)
(想定した質問 2)
(想定した質問 2への回答)
(想定した質問 3)
(想定した質問 3への回答)

Thank you very much for your kind consideration and I apologize for the inconvenience.

Sincerely yours,

(自分のフルネーム) MD

では、またのご来店をお待ちしております。

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国際医療福祉大学医学部 医学教育統括センター 教授 押味 貴之

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