Dr.押味の医学英語カフェ

Menu 4 英語で現病歴を上手く尋ねるコツ

こんにちは。「医学英語カフェ」にようこそ!

ここは「コーヒー1杯分」の時間で、医学英語にまつわる話を気軽に楽しんでいただくコーナーです。

本日のテーマは「現病歴を尋ねる際に役に立つ英語表現」。

現在、ほとんど全ての医学部で医学英語教育の一環として「英語での医療面接History Taking in Englishを指導していることと思います。ただ英語圏での海外臨床実習やUSMLE Step 2 Clinical Skills という米国医師資格の臨床スキルの試験の受験を考えている場合には、「日本のOSCEを英訳する」というやり方では十分ではなく、英語圏での「病歴聴取History Taking で特に重要視される、「現病歴History of Present Illness (HPI) を上手に尋ねるスキルを身につけることが大切になります。

そこで本日は、この現病歴を上手く尋ねられるようになるコツと、役に立つ英語表現をご紹介します。

そもそも「医療面接」は英語で何というのでしょう?日本では昔「問診」と呼んでいましたが、「病歴聴取だけでなく、患者との望ましい信頼関係を構築するという機能ももつ」という理由で「医療面接」と呼び名が変えられました。しかし英語圏では「病歴聴取において患者との望ましい信頼関係を築く building a rapport with a patient ことは当然である」ということで、昔も今も History Taking と呼んでいます。ただ英語圏では「医療面接」 History Taking 「身体診察」 Physical Examination 「患者教育」 Patient Education などを全て同時に行うことが一般的ですので、これら全てを同時に行う外来での診療行為は、 Patient EncounterClinical Encounterと呼ばれています。

患者さんと対面したらまずはこちらにあるようにGreeting、Introduction、Describing your role、Getting a consent、Confirming the patient’s full name, date of birth, and age をします。
これらが済んだら来院した理由となる「主訴chief complaint を尋ねるわけですが、ここでは “ How can I help you today? ” や “ What seems to be the problem? ” といった表現を使いましょう。間違っても “ What is your problem? ” や “ What is wrong with you? ” といった表現は使わないように。これらは「文句あるか?」というニュアンスの表現ですので。

患者さんが主訴を述べたら、主訴の詳細な情報である「現病歴 History of Present Illness (HPI) について尋ねていきます。英語圏ではこの現病歴は非常に重要視され、これを上手く尋ねられるかどうかは医師の評価にも大きく影響します。その最初の質問表現としては、「ではその症状について詳しく話してもらえませんか?」 “ Could you tell me more about the symptom? ” という「開放型質問open-ended question を使い、患者さんに自由に話してもらうことを心がけます。

ここまでは日本のOSCE でも習ったやり方と同じで、おそらく多くの日本人の医学生や医師も問題なくできることと思います。しかし問題となるのはこの後なのです。
実に多くの方が開放型質問の「形式」だけに捉われてしまい、開放型質問の本来の意図である、「患者さんに自分の言葉で語ってもらう」という点を忘れてしまうのです。したがって患者さんが話し始めたら、患者さんに正対して様々な形で「傾聴active listening をして、実際に患者さんに自分の言葉で語ってもらうこと促すことが求められるのです。

英語圏の医師は、「リラックスした雰囲気」を作り出して患者の言葉を引き出そうとします。そのやり方は医師にとって様々ではありますが、現病歴を尋ねる段階では特に「自分の言葉で語ってください」というメッセージを有形無形で送ろうとするのです。ですからこの最初の段階では、「患者の話に臨機応変に対応する responding to the patient’s remarks ということが何よりも重要になります。つまり自分が用意した「開放型質問」を立て続けに浴びせるのではなく、患者さんの話に沿って「会話」をすることが大切なのです。その際には下記のような「相槌 active listening cues がとても役に立ちます。英会話に慣れないうちは同じような相槌を使わないように、いろいろと組み合わせて使ってみましょう。

Hmm.” / “Aha.”/ “OK.”/ “Go on.”/ “I see.” / “I understand.

特に日本語の「なるほど」に当たる表現として、上記の “I see.” や “I understand.” は有効です。ただ “I know.” という表現は使い方によっては、「わかってるよ」のように聞こえ、状況によってはネガティブな印象を与えてしまうので、使わない方が無難です。

一通り患者さんが話し終えたら、主訴の経過を詳しく話してもらいます。ここで意識してもらいたいのは Drawing the “ picture ” of the patient’s story ということです。つまり主訴の経過を患者の視点でしっかりと視覚的に再現できるように整理して話してもらうのです。
具体的には経過を「発症時 Onset、「発症前 Before the Onset、「発症後After the Onset の3つに分類して、それぞれに開放型質問をしていきます。

● Onset: “Could you tell me how things were when the symptom started?
● Before the Onset: “How about before it started?
 ・Previous presence of the same symptom: “Have you ever had the same symptom before?
● After the Onset: “Could you tell me how things have been since the (chief complaint) started?
 ・Other Symptoms: “Have you noticed anything else besides the (chief complaint)?
 ・Treatment: “Have you taken some medications or have seen a doctor about this already?

上記のように「発症前」に関しては「以前にも同じ症状があったか」を、「発症後」に関しては「他に症状があるか」や「主訴に対して服用や他の医療機関の受診をしているか」も尋ねておくと、主訴の経過に関してより詳しく話してもらえることができます。
このように一通り「発症時」「発症前」「発症後」の3つに分けて聞き出した後、 “Now I’m going to ask more details about the (chief complaint).” と言って、診断に必要な詳しい質問に移ります。
特に主訴が「めまいdizziness のように最初に分類が必要になるようなものの場合でも、いきなり “Do you feel lightheaded, or do you feel like the room is spinning?” のように閉鎖型質問で尋ねるのではなく、 “Please describe the sensation you’ve been feeling without using the word “dizzy.” のように開放型質問で尋ねる方がよいでしょう。

主訴が痛みの場合、 “OPQRST” や “SOCRATES” といった有名な「語呂mnemonics があります。こういったチェックリストは「モレなくダブりなく」質問するには大変有効ではありますが、こういったチェックリストにある質問を話の文脈に合わせず、ただ語呂の項目に沿って尋ねていくのはお勧めしません。まずは上記のように「発症時」「発症前」「発症後」に関して聴き出した後、患者さんの話を適宜「まとめるsummarize ことをお勧めします。こうして患者さんの話を適宜まとめながらその流れの中で “OPQRST” のようなチェックリストを参照すると、聞き漏らした項目について自然な流れで尋ねることができるからです。

今回ご紹介したポイントを押さえて練習を重ねれば、 building a rapport with your patient drawing the “picture” of your patient’s story も可能となり、上手に英語で現病歴を尋ねることができるようになるでしょう。

さてそろそろカップのコーヒーも残りわずかです。最後に今日ご紹介した現病歴で役に立つ英語表現をまとめておきます。

Chief Complaint: “How can I help you today?” or “What seems to be the problem?

Open-Ended Question: “Could you tell me more about the symptom?

Active Listening Cues:
 ● “Hmm.
  “Aha.
 ● “OK.
 ● “Go on.
 ● “I see.
 ● “I understand.

Onset, Before the Onset, and After the Onset:
 ● Onset: “Could you tell me how things were when the symptom started?”
 ● Before the Onset: “How about before it started?
  ・Previous presence of the same symptom: “Have you ever had the same symptom before?
 ● After the Onset: “Could you tell me how things have been since the (chief complaint) started?
  ・Other Symptoms: “Have you noticed anything else besides the (chief complaint)?
  ・Treatment: “Have you taken some medications or have seen a doctor about this already?

More Details about the Chief Complaint:
 ● “Now I’m going to ask more details about the (chief complaint).
 ● “Please describe the sensation you’ve been feeling without using the word “(chief complaint).

では、またのご来店をお待ちしております。

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国際医療福祉大学医学部 医学教育統括センター 教授 押味 貴之

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