Dr.押味の医学英語カフェ

Menu 8  医療職の名称に関する英語表現

こんにちは。「医学英語カフェ」にようこそ!

ここは「コーヒー1杯分」の時間で、医学英語にまつわる話を気軽に楽しんでいただくコーナーです。

本日のテーマは「医療職の名称に関する英語表現」。

「看護師」や「歯科医師」は英語ではそれぞれ nurse とdentist となることは常識としても、「正看護師」や「矯正歯科医師」を英語でどう表現するか、となると、自信がない、という人が多いのではないでしょうか?また日本語の「コ・メディカル」や「パラメディカル」は、それぞれ co-medical や paramedical のように表現してよいのでしょうか?このように医学生や医師の皆さんにとって本来身近なはずの医療職の名称も、それが英語となると意外に知らないものが多いと思います。
そこで本日は、医療職の名称に関連する英語表現をご紹介します。

RN は何の略?知っておきたい看護師の名称
英語で「正看護師」はregistered nurse (RN) となります。米国で医師は John Smith MD のように medical doctor (MD) を使いますが、正看護師は John Smith RN のように RNを使って表現されます。米国での「医師国家試験」に相当するものが United States Medical Licensing Examination であり、その略語のUSMLE を「ユー・エス・エム・エル・イー」と発音することは皆さんご存知だと思いますが、米国での「看護師国家試験」に相当する National Council Licensure Examination の略語である NCLEX はどのように発音するかご存知ですか?実はこれ、「エヌ・クレックス」のように発音するのです。
最近では日本と同様に数が少なくなっていますが、英語圏でも「准看護師」に相当するものが存在し、米国ではlicensed practical nurse (LPN) や licensed vocational nurse (LVN) などと呼ばれています。先ほど紹介した NCLEX も正看護師 registered (RN) と准看護師 practical nurse (PN) の資格を取得するためのものが別々に存在し、それぞれ NCLEX-RNNCLEX-PN と呼ばれています。このように、正看護師は国を問わず registered nurse (RN) と呼ばれますが、准看護師は英国や豪州などでは、 enrolled nurse (EN) のように呼び方が変わります。
この他にも「看護助手」は、 certified nursing assistant (CNA) や nursing aide (NA) のように表現されます。ですから、 John Smith NA のように名前の後ろに NA がついている名札を見たら、「この人は看護助手としてこの病院で働いているのだな」と気づいてください。

気をつけたい「コ・メディカル」や「パラメディカル」の英語表現
冒頭で紹介したように「歯科医師」の英語は dentist ですが、「矯正歯科医師」は orthodontist となります。ortho- は orthodox (「オーソドックス」「正統な」)でも使われるように、「まっすぐ」という意味です。「整形外科」は本来、「子ども (ped-) の曲がった姿勢をまっすぐに矯正する」という診療科であったことから 、orthopedics 「子どもをまっすぐにする診療科」という英語になります。odon- は「歯」という意味ですから、 orthodontist には「歯をまっすぐにする専門家」という意味があるのです。
日本では医師、歯科医師、看護師以外の医療職を「コ・メディカル」や「パラメディカル」と表現しますが、これらは英語でどのように表現するのでしょう?英語圏のオフィスでは “I am an ally.” というサインを見かけることがあります。この場合のally(「アラィ」のように発音します)は、「LGBTに代表される sexual diversity の権利を擁護する人」を意味しています。このように ally には、「目的を共有して協働する」というイメージがあります。ここから転じて「医師、歯科医師、看護師以外の医療職」には、 allied health care professionals もしくは allied health professionalsという表現が使われます。しかし「そんな英語は聞いたことがない。それって本当にコ・メディカルの英語なの?」と思う方も多いことでしょう。日本では医療者の間でのヒエラルキーが未だ根強く残っていますが、英語圏ではこういった allied health care professionals は、医師や看護師と全く対等な立場でコミュニケーションを取るため、日本のように「コ・メディカル」のようにひとまとまりにして表現されることは稀で、それぞれ physiotherapist (PT)「理学療法士」、occupational therapist (OT) 「作業療法士」、speech therapist (ST) 「言語療法士」 、そして medical lab technologist (MLT) 「臨床検査技師」のように、独立して言及されることが一般的なのです。ですからこの allied health care professionals という表現が日本の「コ・メディカル」と同じようには使われていないので、あまり聞き慣れないというわけです。また、この「コ・メディカル」をそのままco-medical と表現しても、これは完全な和製英語ですので全く通じません。よく「co-medical は和製英語で、正しい英語は paramedic である」という意見も目にしますが、実はこれも誤りです。米国で paramedic とは「救急救命士emergency medical technician (EMT) の最上級の資格である EMT-Paramedic を意味します。ですから日本語の「パラメディカル」の意味で paramedic や、「パラメディカル」をそのまま英語にした paramedical と表現しても、それらは全て「救急救命士」と誤解されますので気をつけてくださいね。

PA? Circulator? Phlebotomist? 日本では馴染みのない医療職の名称
では、最後に日本では馴染みのない医療職の名称をご紹介しましょう。
英語圏で臨床実習をした方なら PA や NP といった、「医師と看護師の中間のような医療職」と遭遇したことがあると思います。physician assistant (PA) は日本にはない米国の医療職です。これは高校を卒業した後、4年間の専門教育を経て得られる医療資格で、医師の指導のもと、日本の研修医とほぼ同じような内容の医療行為を行うことができます。そしてこのPAとほぼ同じような医療行為を行うことができるのが、 nurse practitioner (NP) です。これは正看護師の資格を得た後、さらに専門的な教育を受けてから獲得できる資格で、米国などの英語圏では、医師の確保が難しい地域で primary care を行うことができる医療専門職として、重宝されています。日本でも「特定看護師」として養成が行われていますが、厳密に言うと英語圏のNP と日本の「特定看護師」では業務内容が異なるため、一概に「特定看護師の英語表現は NP である」とは言えないのが現状です。
米国では「手術室」は operation room と呼ばれ、臨床場面ではこの略語の OR が「手術室」として使われています。これに対して英国では theatre(米国式のスペルでは theater) が「手術室」として使われています。麻酔が開発される前、手術というものは痛みを伴うとても辛い医療行為で、現在よりも施術に際してハードルが高く、実施する際には大勢の外科医が見学に訪れていました。このように数多くの見学者が閲覧可能な設備として生まれた「手術室」は、現在のそれとはかなり設備や様相が異なり、あたかも「劇場」のようなものだったために theatre と呼ばれ、英国では現在でもその呼び名が定着しているのです。したがってtheatre で働く医療スタッフは英国では theatre staff、もしくは、 operating department practitioner の略語である ODP と呼ばれています。
手術室に入る際、外科医は「手術時手洗い」をする必要があります。この作業に英語では scrub という動詞を使い、「手術時手洗いをして手術室に入る」を to scrub in や to get scrubbed、「手術用手袋を外して手術室から出てくる」を to scrub out と表現します。「器械出し看護師」は scrub をするところから日本でも scrub nurse と呼ばれますが、手術室の「外回り看護師」を英語で何と言うかご存知ですか?英語では手術室の内外を色々と動き回るところから、 circulatoroperating room circulating/circulation nurse と呼ばれているのです。また英国では「走り回る」というイメージから 、runner や running nurse という俗語でも呼ばれているので、もし耳にする機会があれば、「走っている人」ではなくて「外回り看護師」のことだと思い出してくださいね。
英語で「採血」は phlebotomy と表現します。phleb- は「静脈」、-tomy は「切開」を意味するので、phlebotomy は本来「静脈切開」という意味ですが、医療現場では「採血」や「採血室」という意味で使われます。米国では「採血を専門にする医療職」が存在し、phlebotomist と呼ばれています。ちなみに -ectomy は「切除」という意味の接尾辞で、appendectomy虫垂切除」や cholecystectomy胆嚢切除」のように使われます。 -tomy も -ectomy も -tom切る」という表現から派生したものです。したがってこの -tom に、「できない」を意味するa- という接頭辞をつけて「これ以上切れない」という意味の、 atom (原子)という表現が生まれたのです。皆さんお馴染みの CT も computed tomography という表現の略で、「コンピュータを使った断面から成る画像術」という意味になるのです。
英語圏の病院で癌の告知といった breaking bad news を行う際、chaplain という医療職が活躍します。これは「宗教の専門知識を持つグリーフケアの専門職」で、英語圏の病院では欠かすことのできない医療職と認識されています。同じように日本ではまだ認知度が低いものの、英語圏では欠かせない医療職として、 CLS というものもあります。これは child life specialist の略で、入院などで医療機関に滞在する子どもに対して心理的、社会的なサポートを提供する専門職なのです。

さてそろそろカップのコーヒーも残りわずかです。最後に本日ご紹介した医療職の英語表現をまとめておきます。

 • 正看護師: registered nurse (RN)
 • 准看護師(米国): licensed practical nurse (LPN)
 • 准看護師(米国): licensed vocational nurse (LVN)
 • 看護助手: certified nursing assistant (CNA)/nursing aide (NA)
 • 矯正歯科医師: orthodontist
 • コ・メディカル/パラメディカル: allied health care professionals
 • フィジシャンアシスタント: physician assistant (PA)
 • ナースプラクティショナー(「特定看護師」): nurse practitioner (NP)
 • 器械出し看護師: scrub nurse
 • 外回り看護師: circulator
 • 採血を専門とする医療職: phlebotomist
 • チャプラン(宗教の専門知識を持つグリーフケアの専門職): chaplain
 • チャイルド・ライフ・スペシャリスト: child life specialist (CLS)

では、またのご来店をお待ちしております。

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国際医療福祉大学医学部 医学教育統括センター 教授 押味 貴之

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