Dr.押味の医学英語カフェ

Menu 23 呼吸器と腹部の身体診察に関する英語表現

こんにちは。「医学英語カフェ」にようこそ!

ここは「コーヒー1杯分」の時間で、医学英語にまつわる話を気軽に楽しんでいただくコーナーです。

本日のテーマは「呼吸器と腹部の身体診察に関する英語表現」。

2021 年1月26日に USMLE Step 2 Clinical Skills (CS) の廃止が発表されました。模擬患者さんを相手に history taking や physical exam を行うこの試験は英語を母国語としない受験者にとっては難しい試験と考えられていました。今後しばらくはこの Step 2 CS で評価されていた physical exam の内容が、他の USMLE の試験で評価されることとなりそうです。そしてそういった試験では physical exam に関する「正しい」英語表現を知っておくことも重要となります。

そこで今月は呼吸器と腹部の身体診察に関する英語表現をご紹介します。

cachexiaって何?
循環器の身体診察に関する英語表現」でご紹介した通り、英語圏では general inspection全身観察」に続いて vital signs を確認した後 hand exam を行い、その後はhead/eyes/ears/nose/throat (HEENT) からlower extremities に向かって診察を進めていきます。日本では「腹部の身体診察」は侵襲が少ない「視診」→「聴診」→「打診」→「触診」の順序で行うことが一般的ですが、英語圏では診察する部位に関わらず、inspection視診」→  palpation触診」→ percussion打診」→ auscultation聴診」の順序で行うことが一般的ですので注意してください。

OSCE であれば respiratory exam呼吸器の診察」と abdominal exam腹部の診察」は分けて実施されますが、今回はこの2つを同時にご紹介します。

最初に行う general inspection は患者さんにベッドに座ってもらい、 “I’m going to start by having a look from the end of the bed.” と言い、必ず患者さんのベッドの足元から全身を観察します。chronic obstructive pulmonary disease (COPD) ではこの general inspection に関して特有の表現があります。chronic bronchitis慢性気管支炎」は cyanosis「チアノーゼ」が現れて thorax「胸郭」が前後に bloated「膨らんだ」外見となるために “blue bloater” と表現されます。これに対して cyanosis が現れずにピンクの皮膚色で puff「息を喘ぐ」外見が特徴的な emphysema「肺気腫」は “pink puffer” と表現されます。

このように general inspection では body habitus体型」にも注意が必要です。「悪液質」という訳語が使われている cachexia(「カシィア」のように発音)ですが、これは「病的に痩せた状態」のイメージを持つ表現で、malignancies や AIDS の患者さんの外見の表現でよく使われます。

leukonychia って何?
次に各部の診察に入ります。最初は hand exam ですので “I’m going to take a look at your hands.” と言って nail inspection から行いましょう。爪に白い斑点が認められる場合、それは leukonychia と呼ばれ、hypoalbuminemia低アルブミン血症」を示唆します。また spoon nails と皆さんが記憶されている「さじ状爪」には koilonychia という医学英語もあります。flapping tremor羽ばたき振戦」としても知られる asterixis ですが、この診察には “Please extend your arms and fingers and hold them.” と言って、患者さんに手首と指を伸展してもらう必要があります。もし筋緊張が消失して手首と指の伸展を保持できない場合、hepatic encephalopathy肝性脳症」による asterixis と呼びます。これは筋緊張の消失によって起こるため、negative myoclonus とも呼ばれます。定義上これは tremor とはなりませんのでご注意を。

次に両手を「回外」してもらって palms手掌」を観察しましょう。手掌が赤くなっていれば、estrogen の増加によって生じた palmar erythema手掌紅斑」です。ちなみに英語で「伏臥位」を prone position、「仰臥位」を supine position と言います。ですから「手の平を伏臥位にする」という動きの「回内」は pronation、「手の平を仰臥位にする」という動きの「回外」は supination と表現されます。

「眼球結膜黄染」と「眼瞼結膜蒼白」は英語で何と言う?
次に HEENT頭頸部」の診察です。
呼吸器と腹部の診察では eye inspection が重要ですので、“I’m going to pull down your lower eyelid. Please look up for me.” と言って「眼球結膜」と「眼瞼結膜」を観察しましょう。jaundice黄疸」の所見である「眼球結膜黄染」は英語では conjunctival icterus となり、anemia貧血」の所見である「眼瞼結膜蒼白」は conjunctival pallor となります。

neck palpation では「首を触りますね」という曖昧な表現よりも、 “I’m going to examine the glands in your neck.” のような具体的な表現の方が自然です。「リンパ節腫脹」は一般英語では swollen lymph nodes となりますが、医学英語では lymphadenopathy となります。腹腔のリンパ液が集まる left supraclavicular lymph node左鎖骨上リンパ節」は Virchow’s node と呼ばれますが、ここが腫脹すると Troisier’s sign と呼ばれ、腹腔内の悪性腫瘍の転移が疑われます。

tactile fremitus ってどう診察するの?
ではここから chest「胸部」の診察に入りましょう。身体診察において chest exam と言えば lung exam のことで、心臓の診察である heart exam とは区別して使われます。lung palpation では “I’m going to put my hands around your chest. Could you take some deep breaths for me, please? Please breathe in deeply. And now breathe out.” と指示して自分の手の動きを観察することで lung expansion の有無を確認しましょう。

日本の診療ではあまり行われることがない tactile fremitus ですが、これはどんな診察なのでしょう。まず “I’m going to place my hands on your back.” と言って患者さんの背中に両手を当てます。次に “Could you say ‘ninety- nine’ for me, please?” と言って低い声で “Ninety-nine, ninety-nine, ninety-nine…” と言い続けてもらいます。患者さんが “Ninety-nine” という低い声を発すると肺が fremitus震盪」します。そのfremitus をtactile触知」することで肺の状態を推察します。もし fremitus が強くなれば肺の実質が solid硬い」状態になっていることが推察されます。このように肺の実質が solid な状態になることを pulmonary consolidation と呼び、肺胞内部に液体が貯留する typical pneumonia定型肺炎」や left heart failure左心不全」などの所見となります。これに対して fremitus が弱くなれば、肺の外側に液体や空気が存在することが推察され、pleural effusion胸水」や pneumothorax気胸」などの所見となります。この tactile fremitus は「声によって生じる震盪」という意味で vocal fremitus声音震盪」とも呼ばれます。

次は lung percussion です。「打診」の際には hit ではなくtap を使って “I’m going to tap on various points of your chest.” と伝えます。この lung percussion ではその音の表現だけでなく、それが示唆する状態も含めて覚えることが重要です。正常な肺の打診音は resonant sounds と表現されます。これが高くなると hyper-resonant sounds となり、肺の実質の外側に空気が存在する状態、すなわち pneumothorax を示唆します。正常の resonant より低い打診音は dull sounds となり、これは先ほど紹介した pulmonary consolidation、つまり typical pneumonia や left heart failure などを示唆します。この dull がさらに低くなると石を叩いているような stony dull sounds となります。これは肺の実質の外側に液体が存在する状態、すなわち pleural effusion を示唆するわけです。このように lung percussion では、それぞれの音が示唆する状態も必ず一緒に覚えてください。

肺の聴診では音を視覚化することが有効
ではいよいよ、chest exam のハイライトである lung auscultation を見ていきましょう。一般的な lung auscultation をご紹介する前に、tactile fremitus 同様に日本ではあまり知られていない egophony をご紹介します。これは “I’m going to listen to various points of your chest. Could you say ‘E’ for me, please?” と指示して行います。もちろん正常な肺であれば患者さんが ‘E’ と言えば ‘E’ と聞こえます。しかし肺の実質が硬くなった pulmonary consolidation の状態では、この ‘E’ が ‘A’ のように聞こえるのです。動物で「エ~」のように鳴くのは goatヤギ」ですので、この egophony は日本語では「ヤギ音」と呼ばれるのです。ちなみに “Which one is the GOAT? Messi or Cristiano Ronaldo?” で使われる GOAT とは greatest of all time「史上最高(の選手)の略語で、スポーツの世界でよく使われる表現です。

呼吸音を聴診する lung auscultation では患者さんに “I’m going to listen to various points of your chest. Could you breathe deeply through your mouth, please?” と言って、大きく口から息をしてもらいましょう。ただ小児科において小さな子どもにこのような指示をしてもうまく聴診ができませんね。そのような場合には “OK Sam, please pretend that there is a birthday cake with a lot of candles in front of you. Please blow out all of the candles for me. Great. And again… one more time…” のような表現を使うとうまく聴診することが可能になります。

heart auscultation心音の聴診」において、 murmur心雑音」の聴取では「収縮期雑音か拡張期雑音か」「どの弁で一番大きな心雑音が聞こえるか」といったアプローチが有効でしたが、lung auscultation「呼吸音の聴診」では音を視覚化することが有効と言えます。

trachea「気管」までの upper airway「上気道」から bronchus/bronchi「気管支」にかけての領域では inspiration/inhalation「吸気」と expiration/exhalation「呼気」の強さと長さが同じで、吸気と呼気の間に gap が生じる bronchial breath sound(視覚化したイメージはこちら)が主に聞こえます。これに対して bronchioles「細気管支」から alveolus/alveoli「肺胞」にかけての領域では吸気が呼気に対して強く長く、かつ吸気と呼気の間に gap が生じない vesicular breath sounds(イメージはこちら)が主に聞こえます。もしこの vesicular breath sounds が聞こえる領域で本来聞こえないはずの bronchial breath sounds が聴取された場合、それはその領域に問題があって本来の vesicular breath sounds が聴取されない異常な状態が示唆され、bronchial breathing と呼ばれます。

もしも bronchial breath sounds の領域で low-pitched rattling sounds低音のゴロゴロした音」が聴取された場合、それは rhonchi(イメージはこちら)と呼ばれます。これは bronchitis気管支炎」などで気管支の内面に痰が付着することで生じる、吸気と呼気の両方で聞こえる音で、日本語では「いびき音」と呼ばれます。

これに対して vesicular breath sounds が聞こえる領域で high-pitched whistling sounds高音の笛のような音」が聴取された場合、それは wheezes(イメージはこちら)と呼ばれます。これは COPDasthma のような lower airway「下気道」の閉塞に伴い生じる、吸気と呼気の両方で聞こえる音で、日本語では「喘鳴」と呼ばれます。気をつけて頂きたいのがこの wheezes はあくまでも stethoscope「聴診器」を通してのみ聴取される音であり、聴診器なしで聞こえる喘鳴は stridor と呼ばれます。これはepiglottitis喉頭蓋炎」のような upper airway の閉塞によって生じる音ですので、wheezes とは区別して覚えておいてください。

これ以外にも vesicular breath sounds が聞こえる領域では、 crackles と呼ばれる異常音が聞こえる場合があります。これは alveoli から生じる音で、米国では rales と、そして英国では crepitations とも呼ばれます。吸気の終わりに fine popping sounds細かく弾ける音」が聴取された場合、それは fine crackles(イメージはこちら)と呼ばれます。これは硬くなった alveoli が吸気の際に膨らむ際に聞こえる破裂音で、pulmonary fibrosis「肺繊維症」や atypical pneumonia「非定型肺炎」の際に聴取されます。また吸気だけでなく呼気の最初に coarse bubbling sounds荒い泡が立つような音」が聴取された場合、それは coarse crackles(イメージはこちら)と呼ばれます。これは alveoli の中に液体が貯留し、そこに空気が入った際に聞こえる水泡音で、left heart failuretypical pneumonia の際に聴取されます。

このように肺の聴診では、音の名称を視覚化したイメージと一緒に覚えると忘れにくいと思います。

「筋性防御」は英語で何と言う?
では最後に abdominal exam腹部の診察」を簡単に見ていきましょう。

abdominal inspection では “I’m going to take a look at your tummy/belly/abdomen.” と言って、下記のような異常所見の有無を確認しましょう。
 ● abdominal distention腹部膨満
 ● scars瘢痕
 ● striae/stretch marks皮膚線条
 ● hyperpigmentation色素沈着
 ● spider nevus/neviクモ状血管腫
 ● caput medusaeメドゥーサの頭

日本の診察では最後に行われる abdominal palpation ですが、その際には “I’m going to press your tummy/belly/abdomen.” と press という動詞を使います。また「浅い触診」は shallow ではなく light を使って light palpationと表現されますが、「深い触診」はそのまま deep palpation と表現され、患者さんには “I am going to press deeply.” と伝えます。

日本人の医師で peritonitis腹膜炎」の所見である「筋性防御」のことを muscular defense と表現される方を散見しますが、英語圏では guarding と表現されるので覚えておきましょう。同じ peritonitis の所見である rebound tenderness反跳痛」の診察では “Could you tell me which hurts more? When I press, or let go?” と患者さんに伝えると良いでしょう。

さて、そろそろカップのコーヒーも残りわずかです。最後に本日紹介したポイントをまとめておきます。

General Inspection全身観察での表現
  pink puffer: emphysema「肺気腫」患者の外見表現
  blue bloater: chronic bronchitis「慢性気管支炎」患者の外見表現
  body habitus: 体型
  cachexia: 病的に痩せた状態

Hand Exam手の診察での表現
  leukonychia「爪の白斑」: hypoalbuminemia「低アルブミン血症」の所見
  koilonychia「さじ状爪」: iron deficiency anemia 「鉄欠乏性貧血」の所見
  asterixix「羽ばたき振戦」: hepatic encephalopathy「肝性脳症」の所見
  palmar erythema「手掌紅斑」: elevated estrogen の所見

Neck Exam首の診察での表現
  conjunctival icterus「眼球結膜黄染」: jaundice「黄疸」の所見
  conjunctival pallor「眼瞼結膜蒼白」: anemia「貧血」の所見
  Troisier’s sign/swollen Virchow’s node (left supraclavicular lymph node): malignancy in the abdominal cavity の所見

Lung Palpation肺の触診での表現
  tactile/vocal fremitus「触覚・声音震盪」: 患者に ‘ninety-nine’ という低い音を発してもらい、その震盪を触知する診察。震盪が強くなれば pulmonary consolidation という「肺の実質が硬くなった状態」、つまり肺胞内部に液体が貯留した typical pneumonia「定型肺炎」や left heart failure「左心不全」の所見となる。逆に震盪が弱くなれば肺の外側に液体が貯留する pleural effusion「胸水」や空気が存在する pneumothorax「気胸」などの所見となる。

Lung Percussion肺の打診での表現
  resonant sounds: 正常な肺の打診音
  hyper-resonant sounds: pneumothorax「気胸」の打診音
  dull sounds: pulmonary consolidation「肺の実質が硬くなった状態」の打診音
  stony dull sounds: pleural effusion「胸水」の打診音

Lung Auscultation肺の聴診での表現
  egophony「ヤギ音」: 患者にR という音を発してもらい、その音を聴診して ‘A’ とヤギが鳴くような音に変わったら pulmonary consolidation の所見となる。
  bronchial breath sounds(イメージはこちら): 気管支領域周辺で聴取される正常音
  vesicular breath sounds(イメージはこちら): 肺胞領域周辺で聴取される正常音
  bronchial breathing: 肺胞領域で bronchial breath sounds が聴取される異常な状態

  rhonchi(イメージはこちら): 吸気と呼気の両方に聴取される低い音(bronchitis の所見)
  wheezes(イメージはこちら): 吸気と呼気の両方に聴取される高い音(lower airway obstruction の所見)
  fine crackles(イメージはこちら): 吸気の終わりに聴取される細かく弾ける音(pulmonary fibrosis の所見)
  coarse crackles(イメージはこちら): 吸気と呼気の最初に聴取される泡が立つ音(typical pneumonia の所見)

Abdominal Exam腹部の診察での表現
  abdominal distention「腹部膨満」
  scars「瘢痕」
  striae/stretch marks「皮膚線条」
  hyperpigmentation「色素沈着」
  spider nevus/nevi「クモ状血管腫」
  caput medusae「メドゥーサの頭」

  light palpation「浅い触診」
  deep palpation「深い触診」
  guarding「筋性防御」
  rebound tenderness「反跳痛」

では、またのご来店をお待ちしております。

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国際医療福祉大学医学部 医学教育統括センター 教授 押味 貴之

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