Menu 31 もの忘れに関する英語表現

2021/10/01

こんにちは。「医学英語カフェ」にようこそ!

ここは「コーヒー1杯分」の時間で、医学英語にまつわる話を気軽に楽しんでいただくコーナーです。

本日のテーマは「もの忘れに関する英語表現」。

社会の高齢化に伴い、「認知症」dementia の重要性も増しています。また医学教育モデル・コア・カリキュラムでは、「もの忘れforgetfulness が必須の症候の一つとして挙げられています。しかし英語で forgetfulness の診察をする際には、日本人に馴染みのない様々な英語表現も存在します。

そこで今月は「もの忘れ」に関する様々な英語表現をご紹介しましょう。

explicit memoryってどんな記憶?
まずは「記憶memory の種類に関する英語表現を確認しましょう。

保持時間が非常に短い「短期記憶」は short-term memory で、皆さん医学生にとってかなり重要な「長期記憶」は long-term memory となります。

そして、この long-term memory は2種類に分類されます。英語で「思い出す」という動詞は recall となりますが、全く考えずにrecall することができる long-term memory は「潜在記憶implicit memory と、そして recall するために考える必要がある long-term memory は「顕在記憶explicit memory と呼ばれます。

前者の implicit memory は時間が経っても忘れることは少ない記憶で、英語の語彙の習得においても、反復練習をすることでこの implicit memory にまで昇華することが重要だと言われています。これに対して後者の explicit memory はその内容を記述することができるような long-term memory のことで、一般的に我々が「記憶力」と呼んでいるのは、この explicit memory をどれだけ recall できるかということになります。

皆さんも試験前に「一夜漬けbinge studying をすることが多いと思いますが、この binge studying で詰め込むことができるのが explicit memory なのです。(ちなみにこの binge とは「短期間にたくさん」というイメージの表現で、binge drinking一気飲み」や binge eatingむちゃ食い」のようにも使われます。)そしてさらにこの explicit memory は個人の体験に関連した「エピソード記憶episodic memory と、内容を理解して覚える「意味記憶semantic memory の2種類に分けられます。

医学部の勉強で中心となるのがこのsemantic memory なのですが、大量の情報を記憶するために古今東西、様々な「記憶法・暗記法」が作られています。この「記憶法」のことを英語では mnemonic(mは発音せずに「ニュニック」のように発音)と呼びます。そしてこれは一般的には「語呂合わせ」というニュアンスで使われており、英語圏でもたくさんのものがあります。

代表的な英語圏の mnemonic として “CRASH and Burn!” というものがあります。

これは「川崎病Kawasaki Disease の6つの主要症状に関する mnemonicです。英語でHonda や Kawasaki と言えば motorcycle「バイク(オートバイ)」が想起されます。そこから「Kawasaki のmotorcycleが Crash して燃え上がるBurn)」様子をイメージして記憶するというわけです。この表現はそれぞれ Conjunctivital injection「眼球結膜充血」、Rash「発疹」、Adenopathy「リンパ節腫脹」、Strawberry tongue「いちご舌」、Hand-foot changes「手足の腫脹・発赤」、Fever「発熱」の英語の頭文字(もしくは連想)になっています。一般的に mnemonics には「それ自体を覚えることが難しい!」という批判があるのですが、これは「川崎→バイク→クラッシュして燃え上がる」という一連のイメージが想起しやすい、大変優れた mnemonicと言えます。

The 4 As of Alzheimer’s disease って何のこと?
今回のテーマである「もの忘れ」の一般英語は forgetfulness、もしくは memory loss となりますが、医学的には「健忘症amnesia となります。そしてこの amnesia では一般的に episodic memory や semantic memory などの explicit memory が影響を受けるということをまず押さえておきましょう。

私のお気に入りの映画の一つに “The Bourne Identity” というスパイ映画があります。この中で主人公のJason Bourneは負傷するの記憶を失った謎の人物として登場しますが、このように central nervous system (CNS) insult より前の記憶を失うamnesia は「逆行性健忘retrograde amnesia と呼ばれます。逆に CNS insult 後に新たな記憶ができなくなる amnesia は「前行性健忘anterograde amnesia と呼ばれます。

この retrograde amnesiaと anterograde amnesia の両方が一過性に起こるものとして「一過性全健忘transient global amnesia (TGA) というものがあります。これは何のきっかけもなく、直近数時間の出来事についての記憶を失い、一時的に新たな記憶ができなくなるような amnesia で、通常は24時間以内に回復します。

この amnesia は「高次機能障害executive function disorder/executive dysfunction の症状の一つですが、この executive function disorder では他にも難しい用語の症状が現れます。

視覚・聴覚・触覚などの感覚には問題がないのにも関わらず、見たり聞いたり触ったりしたものの名前が言えなかったり、その意味が思い出せないことを「失認agnosia と言います。

失語」は英語で aphasia と言いますが、これには皆さんお馴染みの Wernicke’s aphasiaBroca’s aphasia の2種類があります。Wernicke’s aphasiaは言葉の意味がわからなくなってしまう「感覚性失語receptive aphasia ですが、言葉を流暢に話せることからfluent aphasia とも呼ばれています。これに対して言葉が出てこなくなる Broca’s aphasia は「運動性失語expressive aphasia の他、流暢に話せないことから non-fluent aphasia とも呼ばれています。

この aphasia と混同される症状としてdysphasiadysarthria があります。dysphasia の dys- は「困難」という意味で、ここから dysphasiaは部分的な aphasia、つまり「発語障害」という意味になります。この dysphasia は「嚥下困難」を意味する dysphagia とは一文字違いで、発音も極めて近い(近いけど異なります!)ので注意してください。これに対して dysarthria の arthr- には「関節」や「調音」という意味があり、ここから dysarthria は発音がうまくできない「構音障害」という意味になります。

この他、日常の簡単な動作ができなくなる「失行」は英語では apraxia と言います。これに対して動作の調整ができなくなる「失調」は ataxia と言います。日本語も英語もそれぞれ似ている表現ですので、混同しないように気をつけてくださいね。

アルツハイマー病Alzheimer’s disease ではこの Amnesia, Agnosia, Aphasia, and Apraxia の4つが見られるため、これらを称して The 4 As of Alzheimer’s disease と呼びます。

“memory like a sieve” ってどんな記憶?
これまで難しい専門用語を中心にご紹介してきたので、ここで少し記憶に関する一般的な英語表現もご紹介しておきましょう。

私が教えている国際医療福祉大学医学部では、最初の2年間で基礎医学と臨床医学を英語だけで学ぶのですが、最初のうちは難しい医学の内容を英語で話されても「何も頭に残らない」という学生さんも多くいらっしゃいます。このような状態を日本語では「右の耳から左の耳」のように表現しますが、英語でも go in one ear and out the other を使って、 “It seems like everything goes in one ear and out the other.” のように表現します。

日本語では「記憶に残らない」ことを「に残らない」と表現するように、記憶する場所のことを無意識に「」として表現しています。そのため「頭」の中の5つの感情がキャラクターとなって活躍するディズニー映画 “Inside Out” の邦題は「インサイド・ヘッド」となっていました。これに対して英語では記憶する場所のことを mind としてイメージします。ですから「記憶に残らない」という表現は head ではなく mind を使って、not stick in one’s mindslip one’s mind のように表現します。これに対して英語の head には「考える場所」というイメージがあるためか、「思いつきで」とか「深く考えずに」という意味で off the top of one’s head のように使われます。

このように日本語と英語では発想する喩えも異なります。日本語ではすぐに忘れてしまう人のことを「鳥頭」と揶揄することがありますが、英語では喩えが異なり、 “I have the memory of a goldfish.” のように「金魚」を使って表現します。このように、英語圏では金魚などの魚に対して「記憶力が低い動物」という stereotype が定着しています。ディズニー映画 “Finding Nemo” や “Finding Dory” でお馴染みの Dory という魚が memory loss で困っていたことにも、そんな stereotype が背景にあるのでしょう。これとは逆に英語圏で記憶力の高い動物としての stereotype を持たれているのが「elephant です。ディズニー映画 “Zootopia” では象のヨガインストラクターNangiに関して “As you can see, Nangi is an elephant, so she will totally remember everything.” という表現が使われた背景にはそんな stereotype があるのです。

医学の勉強ではたくさんの情報を記憶することが求められますが、「学んだことを次から次へと忘れてしまう」ということはよくあります。こんな状態のことを英語では「ふるいsieve を使って “I have a memory like a sieve.” のように表現します。ちなみに頭部にある「篩骨(しこつ)」の「」は「ふるい」を意味するため、「篩骨」の英語である ethmoid bone には a bone that looks like a sieve という意味があります。

「思い出す」際の表現として、日本語では「ピンと来る」のような表現を使いますが、英語でも ring a bell という表現が使われます。私の医学英語の授業ではそれまでに学んだことの復習を何度も繰り返し行うのですが、そこでは思い出すヒントを与えながらいつも “Does it ring any bells?” 「これで思い出した?」「何かピンと来ない?」という表現を使っています。

MMSEを英語でもやってみよう!
では、ここでもう一度 forgetfulness に話を戻しましょう。

患者さんが forgetfulness を訴える際には患者さん本人だけでなく、患者さんのことをよく知る家族や介護者に対して history taking を行い、その forgetfulness の詳細な経過と日常生活への影響について丁寧に尋ねていきます。

そして physical examination に入る際には、患者さんの「認知機能cognitive function を評価するために Mini-Mental State Examination (MMSE) を行います。誰でも練習すれば英語でもできるようになりますので、これを機会に是非練習してみてください。

まずは下記のように述べてから、timeplaceに関する「見当識orientation をそれぞれ5つずつ質問していきます。それぞれの質問に10秒以内で正しく答えることができれば1点ずつ与えます。
“I am going to ask you some questions and give you some problems to solve. Please try to answer as best as you can.”
Orientation to time(各1点・合計5点)
  “What year is this?”
  “What season is this?”
  “What month is this?”
  “What is today’s date?”
  “What day of the week is this?”
Orientation to place(各1点・合計5点)
  “What country are we in?”
  “What prefecture are we in?”
  “What city/town are we in?”
  “What is the name of this building?”
  “What floor of the building are we on?”

次に3つのものをregistration してもらいます。3つ全て繰り返すことができれば3点を与えます。
Registration(各項目1点・合計3点)
  “I am going to name three objects. When I am finished, I want you to repeat them. Remember what they are because I am going to ask you to name them again in a few minutes.”
 Bell, Car, Man
  “Please repeat the three items for me.”


そしてattention を確認するために、serial sevens と呼ばれる100から次々に7を引いてもらう暗算をしてもらうか、 “world” という単語のスペルを逆唱してもらいます。
Attention(93から65まで正しく言えるか、D-L-R-O-W が正しく言えれば5点)
  “Please count backwards from 100 by sevens.”
  “Please spell the word “WORLD.” “Now spell it backwards for me.”


次に先ほど registration してもらった3つのものをrecall してもらいます。3つ全てを思い出すことができれば3点を与えます。
Recall(各項目1点・合計3点)
  “Now what were the three objects I asked you to remember?”


そしてlanguage を確認するために「腕時計watch と「鉛筆pencil を見せて、その名称を言ってもらいます。
Language(各項目1点・合計2点)
  “What is this called?” (watch)
  “What is this called?” (pencil)


次は聞いた表現をそのまま repetition できるかを確認します。
Repetition(合計1点)
  “I would like you to repeat a phrase after me: No ifs, ands or buts.”


その次は reading できるかを確認します。紙に “CLOSE YOUR EYES” と書いておき、その行為が実際にできるかを確認します。
Reading(合計1点)
  “Read the words on this page and then do what it says.”


その次は writing を確認します。紙に何か文章を書いてもらいましょう。
Writing(合計1点)
  “Write any complete sentence on that piece of paper.”


その後は drawing を確認します。五角形を2つ組み合わせた図形を見せて、その図形を書き写してもらいます。
Drawing(合計1点)
  “Copy this design please.”


最後は 3-step command という3つの指示を全て聞いてから、それを実行してもらいます。「右手にこの紙を持ってください」「それを両手で半分に折りたたんでください」「床の上に置いてください」の3つの指示を「全て」伝えてから、その一連の動作をしてもらいます。
3-Step Command(各項目1点・合計3点)
  “Take this paper in your right hand.”
  “Fold the paper in half once with both hands.”
  “Put the paper down on the floor”


30点満点のうち、23点以下で認知症 dementia の疑いとなります。この MMSE は医学知識の有無に関わらず、練習をすれば医学部1年生でもできる検査です。こちら
のPDFを印刷して、時間のある時に是非英語でも練習してみてくださいね。


知っておきたいLewy body の英語の発音
では最後に、 forgetfulness の代表的な鑑別疾患の英語を確認しておきましょう。


大雑把に考えると memory loss の原因は rapid onset/fluctuating course/reversible/altered consciousness/inattention/impaired immediate recall が特色の「せん妄delirium と、insidious onset/progressive course/irreversible/normal consciousness/normal attention/normal immediate recall が特色の「認知症dementia、そして「それ以外miscellaneous に分けることができます。

急性の delirium は様々な疾患が原因で起こるのに対し、慢性の dementia は主に下記の4つに分類されます。


dementia の原因として最も多い「アルツハイマー病Alzheimer’s disease では、その症状がprogress steadily であることと、absence of focal neurological signs ということが特色となります。

日本語では「レビー小体型認知症」として知られる dementia with Lewy bodies/Lewy body dementia ですが、この Lewy の発音は英語では「ルゥイィ」 のようになるので注意してください。この dementia では Parkinson-like symptomsvisual hallucination幻視」が出現することが特徴的です。

脳血管性認知症」は英語ではシンプルに vascular dementia となります。その特徴としては既往歴が related to stroke ということと、症状がstepwise decline することが挙げられます。

比較的 younger age で発症し、personality changes を伴う「前頭側頭型認知症」は、英語では frontotemporal dementia と呼ばれる他、Pick diseaseピック病」という名称も使われています。

そして、このようなdementia を持つ患者さんには様々な医療サービスがあります。


英語圏の pharmacist の大事な仕事として DAA というサービスがあります。これは
「何曜日の何時にどの薬を服用すればいいか患者さんが理解できるようにたくさんの薬を整理する」という dose administration aid と呼ばれるサポートの略語で、最近では日本でも盛んに行われています。

この他、医学生には馴染みが薄い用語として「レスパイトケア」があります。これは英語の respite care の日本語表現です。英語の respite には「小休止」というようなイメージがあり、ここから respite care には「介護をしている家族などが一時的に介護から解放されて休息を取れるようにする支援」という意味があります。ただ respite の発音は英国では「スパィト」と日本語表現に近いのですが、米国では「スピィット」のようになりますので注意してください。

さて、そろそろカップのコーヒーも残りわずかですし、これ以上書いても memory like a sieve のような状態になると思いますので、皆さんにとって stick in your mind となるように今回ご紹介した内容の要点をまとめておきます。


Types of Memory
  short-term memory: 短期記憶
  long-term memory: 長期記憶
    implicit memory: 潜在記憶
    explicit memory: 顕在記憶
       episodic memory: エピソード記憶
       semantic memory: 意味記憶


The 4 As of Alzheimer’s Disease
  Amnesia: 健忘症
  Agnosia: 失認
  Aphasia: 失語
  Apraxia: 失行


Causes of Amnesia/Memory Loss
  Delirium: せん妄
  Dementia: 認知症
  Miscellaneous: その他


Types of Dementia
  Alzheimer’s disease: アルツハイマー病
  Dementia with Lewy Bodies/Lewy Body Dementia: レビー小体型認知症
  Vascular Dementia: 脳血管性認知症
  Frontotemporal Dementia/Pick Disease: 前頭側頭型認知症・ピック病


では、またのご来店をお待ちしております。


「Dr. 押味の医学英語カフェ」では、皆さんから扱って欲しいトピックを募集致します。こちらのリンクからこのカフェで扱って欲しいと思う医学英語のトピックをご自由に記載ください。

国際福祉大学医学部 医学教育統括センター 准教授 押味 貴之

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