Dr.押味の医学英語カフェ

Menu 34 動悸に関する英語表現

こんにちは。「医学英語カフェ」にようこそ!

ここは「コーヒー1杯分」の時間で、医学英語にまつわる話を気軽に楽しんでいただくコーナーです。

本日のテーマは「動悸に関する英語表現」。

動悸」の鑑別自体はそれほど複雑なものではありませんが、原因となる「不整脈」というトピックは苦手と感じている医学生の方も多いのではないでしょうか?

そこで今月は、この不整脈を含めた「動悸に関する英語表現」をご紹介します。

英語では「動悸」をどう表現するの?
動悸とは心臓がドキドキすること」と聞くとダジャレだと思いがちですが、あながち間違いではありません。「動悸」の定義は「心拍を自覚することawareness of one’s own heartbeats であり、英語では palpitations となります。この palpitation とは pulsating 「脈を打つ」というイメージの表現で、通常は palpitations のように複数形で使われます。「触診」を意味する palpation と形が似ていますので注意してください。

そして患者さんが palpitations を訴える際には “I have palpitations.” 以外にも、様々な英語表現が使われます。

患者さんが palpitations を訴える際には、 “My heart is…” にいくつかの形容詞を繋げて表現します。よく使われるのが「ドックンドックンと脈打つ」というイメージの pounding ですが、これ以外にも「羽ばたく」というイメージの fluttering や、「パタパタする」というイメージの flip-flopping という形容詞が使われます。このうち flip とは「上に跳ね上がる」というイメージの表現で、「前方宙返り(前宙)」は front flip と、そして「後方宙返り(バク宙)」は backflip (こちらは1語)と呼ばれます。(ちなみに地面に手をつく「前方転回」と「後方転回(バク転)」はそれぞれ front/back handspring と、そして「側方転回(側転)」は cartwheel と呼ばれます。)これに対して flop とは「下に落ちる」というイメージの表現で、出来の悪い映画やドラマなどは flop と表現されます。「サンダル」は英語でも sandals となりますが、このうち「ビーチサンダルbeach sandals のようにサンダル自体が地面と「パタパタ」とくっ付いたり離れたりするようなものは flip-flops とも呼ばれます。(両足に履くので flip-flops のように複数形になります。)そしてこの flip-flops はオーストラリアでは thongs と呼ばれますが、米国や英国では「紐パンツ・Tバック」のことを thong と呼びますので、実際に使う際には誤解されないように注意してくださいね。

この他にも “My heart is skipping beats.” という表現も palpitations を訴える際によく使われます。これは「心拍が抜ける」というイメージの表現で、他の形容詞と同様に palpitations を意味する表現なのですが、 “My heart skips a beat.” と単数形で使われた場合、それは慣用句として「興奮する」「驚く」「ショックを受ける」というような意味になりますので注意してくださいね。

患者さんが palpitations を訴える際に有効な医療面接の表現として、 “Could you tap out your heart rhythm on the desk?” 「机を指で叩いてご自身の心拍のリズムを表現してくれませんか?」というものがあります。これによって患者さんの palpitations がどのようなものなのか、具体的に理解することができます。

知っておきたい palpitations と arrhythmia の関係
では患者さんが palpitations を訴える際、どのような原因が考えられるのでしょう?

palpitations の定義が awareness of one’s own heartbeats なのですから、心臓の問題が原因として考えられます。そして abnormal heartbeats のことを英語では arrhythmia不整脈」と表現します。つまり「自覚症状のある arrhythmia のことを palpitations と呼ぶ」と考えるとわかりやすいと思います。

一見すると arrhythmia という用語の意味は irregular heart rhythm であり、tachycardia頻脈」や bradycardia徐脈」とは異なると考えられがちです。しかし実際には arrhythmia とはこれらを全て包括した abnormal heartbeats という概念です。そしてこの arrhythmia は下記のように分類できます。

Arrhythmia: 不整脈
  •Tachycardia/tachyarrhythmia: 頻脈
    o Supraventricular tachycardia (SVT): 上室頻拍
      Sinus tachycardia: 洞性頻脈
      Atrial fibrillation (AF): 心房細動
      Atrial flutter (AFL): 心房粗動
      Paroxysmal supraventricular tachycardia (PSVT): 発作性上室(性)頻拍
          Atrioventricular reentrant tachycardia (AVRT): 房室リエントリー性頻拍
          Atrioventricular nodal reentrant tachycardia (AVNRT): 房室結節リエントリー性頻拍
    o Ventricular tachycardia (VT): 心室頻拍
      Monomorphic ventricular tachycardia (MVT): 単形性心室頻拍
      Polymorphic ventricular tachycardia (PVT): 多形性心室頻拍
      Ventricular fibrillation (VF): 心室細動
  • Bradycardia/bradyarrhythmia: 徐脈
    o Sick sinus syndrome (SSS): 洞不全症候群
    o Atrioventricular (AV) block: 房室ブロック
  • Premature contraction: 期外収縮
    o Premature atrial contraction (PAC): 心房性期外収縮
    o Premature ventricular contraction (PVC): 心室性期外収縮

「座学としては理解できるが、Post Clinical Clerkship OSCE でこんなもの全てを思い出せる気がしない!」と思われる方も多いと思いますが、それぞれの特徴と、どのようにして頭の中で整理すべきかをこれからわかりやすく解説していきますので、どうか諦めずにお付き合いください。

知っておきたい sinus tachycardia の “horses”
皆さんご存知の通り、心臓が規則的に収縮できるのは conduction system刺激伝導系」のおかげです。これは sinoatrial (SA) node洞房結節」から始まり、同じ心房内にあるatrioventricular (AV) node房室結節」に伝わった後、心室にて左右の bundle of Hisヒス束」に分かれ、そこから細かな Purkinje fibersプルキンエ繊維」に伝わります。ちなみにこの Purkinje は英語では「プゥキンジ」のような発音になるので注意してください。

palpitations の原因となる arrhythmia で最も多いのが tachycardia ですが、その原因が心室より上、つまり心房や conduction system の SA node から AV node までにある場合には supraventricular tachycardia (SVT)上室頻拍」と、そしてその原因が心室にある場合には ventricular tachycardia心室頻拍」となります。心室頻拍とは異なり、上室頻拍には atria だけでなく SA node から AV node までの conduction system の異常も含まれるため、supraventricular tachycardia (SVT) は atrial tachycardia とは呼ばれないというわけです。

そしてこの SVT の中で、さらに言うと palpitations 全体の原因の中で、最も多いのが sinus tachycardia洞性頻脈」なのです。

これは SA node からの刺激回数が増える状態で、緊張したり運動をした際に「心臓がドキドキする」状態のことです。このように健常な状態でも sinus tachycardia は起こりますが、病的な状態としては下記のようなものが挙げられます。

Sinus tachycardia:「洞性頻脈」の主な原因
  • Psychiatric disorders: 精神疾患
    o Panic disorder: パニック障害
    o Somatization disorder: 身体化障害
  • Intoxication: 中毒
    o Medications: 薬物
    o Stimulants: (カフェインなどの)刺激物
  • Metabolic disorders: 代謝性疾患
    o Hypoglycemia: 低血糖
    o Hyperthyroidism: 甲状腺機能亢進症

英語圏の医学部では “When you hear hoofbeats, think of horses, not zebras.” 「ひずめの音を聞いたら、シマウマではなくウマだと思え。」と教えます。これは「稀な疾患ではなく、まずは頻度の高い疾患を考えろ。」という意味で使われる医学の格言で、ここから zebra は「稀な疾患」という意味で使われています。

もちろん上記以外にも sinus tachycardia には様々な zebras がありますが、皆さんは palpitations 以外にも様々な症状の鑑別疾患も覚えなければなりません。とりあえず sinus tachycardia に関しては上記のように考えていけば、Post Clinical Clerkship OSCE で大事な horses を見落とすことは少ないと思われます。

“frog sign” って何?
では次に、 sinus tachycardia 以外の SVT を見ていきましょう。

心房の中でたくさんの部位が興奮し、心房が痙攣するように収縮する状態を atrial fibrillation (AF)心房細動」と呼びます。これは心房が「不規則に」不整な収縮をするため、英語では irregularly irregular atrial rhythm と表現されます。

これに対して傷などが原因で心房の一箇所が興奮し、心房が flutter「羽ばたく」ように収縮する状態を atrial flutter (AFL)心房粗動」と呼びます。これは心房が「規則的に」不整な収縮をするため、英語では regularly irregular atrial rhythm と表現されます。

何の前触れもなしに突然起こる」ことを英語では paroxysmal発作性」と表現しますが、これは「パラクズゥマゥ」のように発音します。そして「atriaやAV node までの conduction system が原因で起こる tachycardia が、何の前触れもなしに突然起こる」というものを paroxysmal supraventricular tachycardia (PSVT) 発作性上室(性)頻拍」と言います。そしてこの PSVT は AVRT と AVNRT の2種類に分類されます。

atria 「心房」から ventricles 「心室」の間に accessory pathway副伝導路」があり、そこを電気信号が逆流することで tachycardia が生じるものを atrioventricular reentrant/re-entry tachycardia (AVRT)房室リエントリー性頻拍」と呼びます。この代表的なものが Wolff-Parkinson-White (WPW) syndromeWPW症候群」で、この場合の accessory pathway には bundle of Kentケント束」という名称がついています。

これに対して AV node が slow pathway である alpha pathway と、fast pathway である beta pathway の二つに分かれ、タイミングによって電気信号がこの二つの pathway を円のように循環することで tachycardia が生じるものを atrioventricular nodal reentrant/re-entry tachycardia (AVNRT) 房室結節リエントリー性頻拍」と呼びます。この tachycardia の場合、心房と心室が同時に収縮することが起きます。右心房と右心室が同時に収縮することで、jugular vein頸静脈」に本来静脈には見られない「拍動」が認められることがありますが、英語ではこれを「カエルが喉を膨らませている」様子に喩えて frog sign と呼んでいます。ただ英語では「声や喉の様子がおかしい」という状態を “I have a frog in my throat.” と表現します。これは AVNRT に認められる frog sign とは全く関係のない英語表現ですので、混同しないように気をつけてくださいね。

絶対に知っておきたいventricular tachycardia (VT) に伴う随伴症状
では次に ventricular tachycardia (VT)心室頻拍」を見ていきましょう。

SVT と比べ、このVT では cardiac output心拍出量」が著しく低下します。そういう意味で SVT よりも VT の方が危険な tachycardia と言えます。そして VT では脳への血流も低下するので、患者さんは syncope失神」や lightheadedness浮動性眩暈」を経験します。つまり palpitations の診察においては syncope と lightheadedness は red flags危険な疾患の随伴症状」と言えるわけです。この医学英語カフェでは過去にもご紹介していますが、この syncope は「ンコピィ」のような発音になりますので注意してください。

この VT で最も危険なものが、心室が痙攣するように収縮している状態である ventricular fibrillation (VF)心室細動」です。当然患者さんは意識を失っているので、皆さんが VF の患者さんを  Post Clinical Clerkship OSCE で診察することはないでしょう。

そして同じ形の QRS波が現れる VT のことを monomorphic ventricular tachycardia (MVT) 単形性心室頻拍」と、そして複数の形の QRS波が現れる VT のことを polymorphic ventricular tachycardia(PVT)多形性心室頻拍」と呼びます。Kawasaki disease 「川崎病」では vesicular rash 「水疱性皮疹」以外の多様な形の皮疹が現れますが、このように「多様な形の皮疹」のことを polymorphous rash と呼びます。

この PVT としては torsades de pointes が有名ですが、これは “twisting of the points” を意味するフランス語で、心電図上でQRS波がねじれたように見えるところからついた名称です。「ねじれること」は英語では torsion と言いますが、そこから twisted neck を表す「斜頸」の医学英語は torticollis となっています。

Wenckebach って英語でどう発音するの?
では最後に bradycardia と premature contraction に関する英語表現を簡単に見ていきましょう。

SA node がしっかりと電気信号を送ってくれないことによる bradycardia を sick sinus syndrome (SSS)洞不全症候群」と呼びます。

そして心房から心室への電気信号が正常に伝わらない病態を atrioventricular (AV) block房室ブロック」と呼び、その程度によって3段階に分けられます。

心房から心室への電気信号の伝達が遅れるだけの AV block は first-degree AV block となります。これに対して心房と心室の間の伝達が完全に途絶えているものを third-degree AV block と呼びます。先ほど VT の red flags として syncope を挙げましたが、この AV block によって起こる syncope のことを以前は Adam-Stokes syndrome/attackアダム・ストークス発作」と呼んでいましたが、今ではこの Adam-Stokes syndrome/attack はAV block に限らず、 arrhythmia によって起こる syncope の総称として使われています。

そして first-degree と third-degree の中間で、心房と心室の間の伝達が時折途絶えてしまうものを second-degree AV block と呼び、その程度によって Mobitz type IMobitz type II に分けています。この Mobitz type I は心房と心室の間の伝達が遅れた後に途切れるもので、別名である Wenckebach の呼び方の方が一般的です。そしてこれは英語では「ウェンキィバック」のようになり、日本語の「ウェンケバッハ」とは異なるように発音されるので注意してください。これに対して心房と心室の伝達が遅れることなく、突然伝達が途切れる Mobitz type II の方はそのまま Mobitz type II と呼ばれています。

最後に「期外収縮」の英語ですが、これは「機が熟する前の収縮」という意味で premature contraction と表現されます。そして「心房性期外収縮」は premature atrial contraction (PAC) と、そして「心室性期外収縮」は premature ventricular contraction (PVC) と表現されます。どちらも略語は P-A-C と P-V-C のように、アルファベットをそのまま読み上げることが一般的です。つまり PAC は一般的には「パック」のようには発音しないので気をつけてくださいね。

さてそろそろカップのコーヒーも残りわずかです。最後に今回ご紹介した「動悸」に関する英語表現の要点をまとめておきます。


Palpitations動悸を訴える際の英語表現
   I have palpitations.
   My heart is pounding.
   My heart is fluttering.
   My heart is flip-flopping.
   My heart is skipping beats.


Arrhythmia:不整脈の種類
   Tachycardia/tachyarrhythmia: 頻脈
    o Supraventricular tachycardia (SVT): 上室頻拍
       Sinus tachycardia: 洞性頻脈
       Atrial fibrillation (AF): 心房細動
       Atrial flutter (AFL): 心房粗動
       Paroxysmal supraventricular tachycardia (PSVT): 発作性上室(性)頻拍
         Atrioventricular reentrant tachycardia (AVRT): 房室リエントリー性頻拍
         Atrioventricular nodal reentrant tachycardia (AVNRT): 房室結節リエントリー性頻拍
    o Ventricular tachycardia (VT): 心室頻拍
       Monomorphic ventricular tachycardia (MVT): 単形性心室頻拍
       Polymorphic ventricular tachycardia (PVT): 多形性心室頻拍
       Ventricular fibrillation (VF): 心室細動
   Bradycardia/bradyarrhythmia: 徐脈
    o Sick sinus syndrome (SSS): 洞不全症候群
    o Atrioventricular (AV) block: 房室ブロック
   Premature contraction: 期外収縮
    o Premature atrial contraction (PAC): 心房性期外収縮
    o Premature ventricular contraction (PVC): 心室性期外収縮


Sinus tachycardia:洞性頻脈の主な原因
   Psychiatric disorders
    o Panic disorder
    o Somatization disorder
   Intoxication
    o Medications
    o Stimulants
   Metabolic disorders
    o Hypoglycemia
    o Hyperthyroidism

では、またのご来店をお待ちしております。

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国際医療福祉大学医学部 医学教育統括センター 教授 押味 貴之

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