Dr.押味の医学英語カフェ

Menu 47 運動麻痺と筋力低下に関する英語表現

こんにちは。「医学英語カフェ」にようこそ!

ここは「コーヒー1杯分」の時間で、医学英語にまつわる話を気軽に楽しんでいただくコーナーです。

本日のテーマは「運動麻痺と筋力低下」です。

運動麻痺・筋力低下」は医学教育モデル・コア・カリキュラムにある習得すべき37の症候の1つとして定められています。しかし、これらに関連する英語表現は一見すると難しいものが多く、また神経症状の鑑別を苦手としている学生さんも多くいらっしゃいます。しかし複雑に見える医学英語や鑑別疾患も、整理して理解すれば皆さんが思っているよりも難しいものではありません。

そこで今月は、運動麻痺筋力低下に関する英語表現をわかりやすくご紹介します。

「運動麻痺」と「筋力低下」の医学英語は?
運動麻痺」とは「全く筋肉を動かせないこと」で、その医学英語は paralysis となります。これは「正常よりも筋力が落ちること」である「筋力低下paresis とは区別して使われます。そして「運動麻痺」を表す接尾辞として –plegia というものがあり、「片麻痺hemiplegia や「四肢麻痺quadriplegia のように使われます。また単純ヘルペスウイルスによる顔面神経麻痺を「ベル麻痺」と呼びますが、この英語は Bell’s palsy となります。この palsy は「paralysis や paresis を起こす疾患」や「paralysis や paresis に tremors などの involuntary movements を合併した状態」といった意味で使われています。単に「麻痺」として和訳されることが多いこの paralysis/paresis/palsy ですが、全て意味が異なることに注意してください。

この paresis がある場合、患者さんは weak/weakness という表現を使いますが、患者さんは weakness を fatigue という意味でも使うので、患者さんがどちらを意味しているのかを区別する必要があります。

weakness とは「筋力低下decreased muscle strength のことであり、その医学英語は上述の通り paresis となります。これに対して fatigue とは「肉体的・精神的活力の低下」のことであり、その医学英語は lassitude となります。

そして筋肉を動かす肉体的・精神的活力があるにも関わらず、神経系に異常があるために筋力が低下している状態は neurological weakness と呼ばれます。これに対して神経系には異常がないものの、筋肉を動かす肉体的・精神的活力が低下している lassitude のために筋力が低下している状態は functional weakness と呼ばれて区別されています。ですから history taking で患者さんが “weak/weakness” という表現を使う際には、それが neurological weakness なのか、functional weakness なのかをしっかりと区別する必要があるのです。

また患者さんが weakness を訴える場合、その症状を表現する際には weak 以外にも様々な形容詞を使います。「動きが緩徐になる」という場合には slow を使いますし、「動きがぎこちない」場合には clumsy という形容詞も使われます。そしてこの clumsy は「動きが鈍い」「どんくさい」や「運動神経が悪い」という意味でも使われます。また下肢の筋力が低下して「ヨロヨロ・フラフラする」場合には wobbly という形容詞も使われます。

患者さんがどのような weakness を持つかを尋ねる際には、 “Have you noticed any difficulty in completing specific daily tasks, such as brushing hair, or carrying groceries?” のように具体的な動作について尋ねると良いでしょう。

そして、この weakness の程度を表現するものとして客観的な尺度が存在しています。皆さんも OSCE で学んだ通り、身体診察の「徒手筋力検査manual muscle testing (MMT) で 「筋力muscle strength を評価する際には、下記の strength scale を使って0から5で表現されます。

Strength Scale
5: Normal strength
4: Slightly decreased strength
3: Active movement against gravity
2: Active movement without gravity
1: Small trace contractions
0: Paralysis

このstrength scale で筋力が 4 だった場合、その表記は “4/5” のようになります。そしてこの読み方は “four out of five” のようになります。

押さえておきたい「錐体路障害」と「錐体外路障害」に関する英語表現
患者さんが neurological weakness を訴える場合、その病変部位の特定が重要です。

随意運動の情報を伝える経路」を「錐体路pyramidal tract と呼び、ここに障害が生じる「錐体路障害pyramidal tract disorders では「運動麻痺paralysis や「筋力低下paresis が生じます。

そしてこの pyramidal tract disorders の中でも、「上位運動ニューロンupper motor neuron (UMN) が障害される場合には「痙縮spasticity が現れ、「下位運動ニューロンlower motor neuron (LMN) が障害される場合には「弛緩flaccidity が現れます。

これに対して「随意運動の調整を行う経路」を「錐体外路extrapyramidal system/tract と呼び、ここに障害が生じる「錐体外路障害extrapyramidal system/tract disorders では「不随意運動involuntary movements が生じます。

そしてこの extrapyramidal tract disorders では「固縮rigidity が現れます。UMN disorders で生じる spasticityが、運動の方向や速度によって硬さが異なる directionally dependent/velocity dependent であるのに対し、この rigidity は、運動の方向や速度に関わらず硬さが見られる no directionally dependent/no velocity dependent という特徴があります。

ですから患者さんが neurological weakness を訴えた場合、その原因は pyramidal tract disorders であることが考えられ、その病変部位が UMN であれば directionally dependent であり velocity dependent である spasticity が現れ、その病変部位が LMN であれば flaccidity が現れる、ということを覚えておきましょう。

Post CC OSCE でも役に立つ!paralysis/paresis の代表的な鑑別疾患
このように neurological weakness の病変部位特定には UMN と LMN という概念が重要なのですが、Post CC OSCE などで鑑別疾患を考える際には、もう少し部位を特定して考えた方が鑑別疾患を考えやすくなります。教科書や皆さんの大学の授業ではより詳細な鑑別疾患のリストを扱っていると思いますが、個人的には下記のような部位に分けて鑑別疾患を考えるとわかりやすいのではと感じています。

Causes of Paralysis/Paresis
Brain
    Stroke「脳卒中」
    Transient Ischemic Attack (TIA)「一過性脳虚血発作」
    Multiple Sclerosis (MS)「多発性硬化症」
Spinal Cord
    Herniated Disc「椎間板ヘルニア」
    Amyotrophic Lateral Sclerosis (ALS)「筋萎縮性側索硬化症」
    Multiple Sclerosis (MS)「多発性硬化症」
Peripheral Nerves
    Diabetic Peripheral Neuropathy (DPN)「糖尿病性末梢神経症」
    Guillain-Barré Syndrome (GBS)「ギラン・バレー症候群」
Neuromuscular Junction (NMJ)
    Myasthenia Gravis (MG)「重症筋無力症」
    Lambert-Eaton Myasthenic Syndrome (LEMS)「ランバート・イートン症候群」
Muscle
    Muscular Dystrophy「筋ジストロフィー」

では、この中でいくつかの代表的な鑑別疾患に関する英語表現を見ていきましょう。

“FAST” が見られる stroke ではどこの血管が詰まっているの?
まずは最も重要な鑑別疾患である「脳卒中stroke です。

このstroke は一般英語であり、医学英語では cerebrovascular accident (CVA) となります。そしてこの stroke/CVA は「脳出血hemorrhagic stroke と「脳梗塞ischemic stroke を含む概念です。

この stroke の代表的な症状を啓蒙するために “Stroke heroes act FAST.” のように “FAST” という標語が英語圏では使われています。これは “Face, Arm, Speech, and Time to call for ambulance” の頭文字をとったもので、「顔の表情の変化、腕の筋力低下、ろれつがまわらないという症状のうちどれか1つでも見られたら、すぐに救急車を呼びましょう」を意味しています。ではこの Face/Arm/Speech に異常が出る stroke では、脳のどの血管に異常があるのでしょう?

皆さんが「解剖学anatomy で学んだように、「内頸動脈internal carotid arterybrain に、「椎骨動脈vertebral arterybrainstem に、そして「外頸動脈external carotid arteryhead & neck に血液を供給しています。

そしてこの brain に血液を供給している internal carotid artery は下記の3つに枝分かれして、それぞれが閉塞すると特有の症状が現れます。

Internal Carotid Artery の枝と閉塞した際の症状
Anterior Cerebral Artery (ACA)「前大脳動脈」
    Contralateral hemiplegia in the lower extremity「反対側の下肢の運動麻痺」
    Contralateral hemiparesis in the lower extremity「反対側の下肢の筋力低下」
    Contralateral hemiparesthesia in the lower extremity「反対側の下肢の感覚異常」
Middle Cerebral Artery (MCA)「中大脳動脈」
    Contralateral hemiplegia in the upper extremity「反対側の上肢の運動麻痺」
    Contralateral hemiparesis in the upper extremity「反対側の上肢の筋力低下」
    Contralateral hemiparesthesia in the upper extremity「反対側の上肢の感覚麻痺」
    Aphasia「失語」
    Contralateral Hemineglect「反対側の半側空間無視」
Posterior Cerebral Artery (PCA)「後大脳動脈」
    Contralateral Hemianopia「反対側の半盲」

つまり”FAST” で知られる Face/Arm/Speech に異常が出る stroke では、middle cerebral artery (MCA) に異常が生じていることがわかります。ACA や PCA の stroke では、Face/Arm/Speech 以外の症状が現れますので注意してくださいね。

MSにおける Charcot Neurological Triad とは?
次に brainspinal cord という UMN に現れる「多発性硬化症multiple sclerosis (MS) に関する英語表現を見ていきましょう。

この MS は brain から spinal cord にかけてどの部位でも病変が現れます。これを disseminated in space と言い、日本語では「空間的多発性」と呼んでいます。この disseminated とは「広範囲に撒」というイメージの表現で、他にも disseminated intravascular coagulation (DIC)「播種性血管内凝固」のように使われています。

そして MS はその症状の現れる時期にも色々な種類があります。最も多いのが「再発relapse と「寛解remit を繰り返す relapsing-remitting multiple sclerosis (RRMS) というものです。次に多いのが再発と寛解を繰り返した後に「(悪い方向へ)進行progress する secondary-progressive multiple sclerosis (SPMS) というものです。そして最初から progress を示すのが primary-progressive multiple sclerosis (PPMS) と呼ばれます。このように症状が現れる時期に多様な種類があることを disseminated in time と呼び、日本語では「時間的多発性」と呼んでいます。

このような MS の多発性を2つまとめて disseminated in time and space と呼びます。そして一般的には time の方が先に表現されます。

この MS の病態生理は自己免疫による「脱髄demyelination なのですが、この発音は「ディィリネィション」のようになりますのでご注意を。

MS の症状としては Charcot Neurological Triad という3つの症状があり、その覚え方の「暗記法」 mnemonics としては下記の “SIN” というものが有名です。

Charcot Neurological Triad: “SIN”
    Scanning speech「言葉を探す(scan)ように途切れ途切れ話す
    Intention tremor & Incontinence「企図振戦 & 失禁
    Nystagmus「眼振

この Charcot Neurological Triad は、「胆管炎cholangitis に認められる Charcot Triad (fever, right upper quadrant pain, and jaundice) とは異なるので注意してください。

また体温が上がるとMSの症状が悪化する「ウートフ現象・兆候Uhthoff phenomenon/sign のUthoff は、英語でも「ートフ」のような発音になりますが、MSの患者さんが首を前傾することで脊髄に沿って電撃痛が走る「レルミット現象・兆候Lhermitte phenomenon/sign の Lhermitte は、英語では「レッテ」のような発音になるので注意してください。

覚えておきたい MG とLEMS の違い
では最後に LMN 障害としての鑑別疾患の英語表現を見ていきましょう。

糖尿病性神経症diabetic peripheral neuropathy (DPN) では、手袋と靴下をつける部位に症状が現れることが特徴的で、このような分布を英語では glove-and-stoking distributionstocking-and-glove distribution と表現します。

ギラン・バレー症候群Guillain-Barre syndromeCampylobacter jejuni などによる消化管の感染後、下肢から上に向けて起こる bilateral ascending paresis/paralysis が特徴的です。

神経筋接合部neuromuscular junction (NMJ) の疾患としては、「重症筋無力症myasthenia gravis (MG) と「ランバート・イートン症候群Lambert-Eaton Myasthenic Syndrome (LEMS) が代表的です。

MGの方が LEMS よりも頻度が高く、MG では postsynaptic receptor である acetylcholine receptor に対して自己抗体が生じるのに対し、LEMS では presynaptic receptor である calcium channelに対して自己抗体が生じます。

また MG には「眼瞼下垂ptosis や「複視diplopia といった眼の症状が現れる他、 weakness worsens with muscle use であるのに対し、LEMS には dry mouth や erectile dysfunction (ED) といった自律神経系の症状が現れる他、weakness improves with muscle use という特徴があります。

そして MG には「胸腺腫thymoma が合併することに対し、LEMS には「肺小細胞癌small cell lung carcinoma が合併することも重要です。

筋肉muscles の疾患としては「筋ジストロフィーmuscular dystrophy が重要ですが、これには様々な種類があります。

比較的 mild な muscular dystrophy である Becker muscular dystrophy (BMD) の Becker は「ッカー」のような発音となりますが、より severe な muscular dystrophy である Duchenne Muscular Dystrophy (DMD) の Duchenne は「ドゥシェン」のような発音となるのでご注意を。

さて、そろそろカップのコーヒーも残りわずかです。

最後に paralysis/paresis の代表的な鑑別疾患をもう一度まとめておきます。

Causes of Paralysis/Paresis
Brain
    Stroke「脳卒中」
    Transient Ischemic Attack (TIA)「一過性脳虚血発作」
    Multiple Sclerosis (MS)「多発性硬化症」
Spinal Cord
    Herniated Disc「椎間板ヘルニア」
    Amyotrophic Lateral Sclerosis (ALS)「筋萎縮性側索硬化症」
    Multiple Sclerosis (MS)「多発性硬化症」
Peripheral Nerves
    Diabetic Peripheral Neuropathy (DPN)「糖尿病性末梢神経症」
    Guillain-Barré Syndrome (GBS)「ギラン・バレー症候群」
Neuromuscular Junction (NMJ)
    Myasthenia Gravis (MG)「重症筋無力症」
    Lambert-Eaton Myasthenic Syndrome (LEMS)「ランバート・イートン症候群」
Muscle
    Muscular Dystrophy「筋ジストロフィー」

では、またのご来店をお待ちしております。


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国際医療福祉大学医学部 医学教育統括センター 准教授 押味 貴之

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